連載・福祉DX ‐3:サービス管理責任者編(2)

BWAP2データを取り込む!AIを通じて本人とアセスメントを共有する新たな支援

【現実】支援者のキャビネットに眠る「もったいないデータ」

ぽぷら事業所のDX推進担当者です。就労継続支援B型事業所において、利用者の得意・不得意を客観的に把握するためのアセスメントは非常に重要です。しかし、多くの現場において、せっかく時間をかけて取った客観的データが「支援者だけが見る秘密の書類」としてキャビネットに眠ってしまっているのが現実です。本来、アセスメントは「あなたが今どの位置にいて、次にどこを目指せばいいか」を示す地図です。この地図を利用者本人と共有し、一緒に広げながら目標を話し合うことこそが、個別支援計画の真のスタート地点となります。


【課題】客観的な評価を「本人のやる気」に繋げる難しさ

地図を共有すべきだと分かっていても、現場のサビ管がそれを躊躇してしまうのには、深く、誠実な理由があります。傷つけてしまうリスク: 客観的なツールであるほど、スコアの低い部分(苦手なこと)が残酷なほど明確に数値化されます。これをそのまま本人に見せれば、自己肯定感を著しく下げてしまう危険性があります。専門用語の壁: 「作業遂行能力」といった硬い言葉は、利用者にとって直感的に理解しづらく、実感の湧かない目標になりがちです。サビ管の心理的負担: 「事実を曲げずに、かつ希望を持たせるように伝える」という絶妙な言葉選びは高度なスキルを要求され、多忙な中で一人ひとりに合わせた台本をゼロから考えるのは大きな負担です。結果として、具体的なデータは伏せてしまうという無難な選択に落ち着いてしまうのです。


【対策】AIを「通訳」にして、評価シートを未来へのパスポートへ書き換える

このジレンマを解決するのがAIの活用です。AIは冷たいデータを処理するだけでなく、言葉の温度やトーンを自在に調整する優秀な通訳として機能します。マイナス表現のリフレーミング: 「集中力が続かない」という低い評価をAIに入力し、本人の強みとして捉え直すポジティブな表現(例:色々なことに気づける視野の広さがある、など)に変換します。本人専用のフィードバックシートの作成: 難しい専門用語を排除し、「〇〇さんは、ここが素晴らしいですね」「次はこんなことに挑戦してみませんか?」という、本人が読んで自己肯定感が上がる語りかけの口調に変換します。


【当事業所の事例】データが証明する「可能性」とステップアップ

ぽぷら事業所では、このアセスメントの共有とモニタリングを重視しています。当事業所では、BWAP2(基礎的仕事スキル評価)を約3年おきに再アセスメントし、数値の推移を比較しています。
(※BWAP2について詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください)

この「客観的なモニタリング」は、利用者のステップアップやキャリアアップに不可欠なものです。実際に当事業所では、再評価で数値の上昇が見られた方や、元々高い数値を出していた方が、客観的データに自信を深め、一般就労へと羽ばたいていった確かな実績があります。さらに、データが人間の思い込みを覆した劇的な事例もあります。

生活介護で10年以上活動を続けていた方に対し、本人の強みを活かす視点でBWAP2を実施したところ、「就労継続支援B型で十分に活動できるレベル」という判定が出ました。その客観的データに背中を押される形で就労B型へ移行していただいた結果、なんと初日から周囲も目をみはるような素晴らしい活躍を見せてくれたのです。そして、移行から1ヶ月が経過した現在でも、シール貼りや商品の袋入れ、荷物運びといった作業を積極的にこなし、週5日休まずに通所されています。何よりも一番良かったのは、ご自身の役割を見つけたことで、心理的な安定がはっきりと見られるようになったことです。

「どうせこのくらいだろう」という人間の無意識の思い込みを、データが優しく打ち砕き、AIが温かい言葉で本人の背中を押す。これこそが、私たちが目指すスマートで温かい福祉DXの形です。もちろん、BWAP2のようなフォーマルアセスメントと、事業所独自のインフォーマルアセスメントの双方が重要であり、これらを組み合わせることで支援の質はさらに高まります。インフォーマルアセスメントの記録も、個人情報を排除した上でAIに読み込ませることは可能です。ただし、ここで一つ注意点があります。事業所独自の形式や現場特有の言い回しは、AIが意味合いを誤って認識してしまうことがあります。

そのため、「この言葉はこういう意味です」「この項目はこういう意図です」と、その都度情報の上書きや言葉の定義をAIに伝える手続きが必要になります。AIは万能ではなく、私たち支援者が丁寧にすり合わせを行うことで、初めて正しく機能するのです。

そして現在、ぽぷら事業所が当面の目標として掲げているのが、「本人参加型のアセスメント実施と結果のフィードバック」、ならびに「日々の支援記録(クラウド日誌のCSVデータ)とBWAP2の連携」です。

個人情報を完全に排除できる安全な仕組みが整い次第、日々のリアルな変化と長期的な客観的データをAIに掛け合わせ、より解像度の高いフィードバックを生成したいと考えています。支援者が一方的に評価するのではなく、AIの翻訳というクッションを挟むことで、利用者本人が恐怖心なく自分の現在地を知り、支援者と一緒に未来の地図を描く。その主体的なプロセスこそが、真のエンパワーメントに繋がると信じています。


【応用編】一歩進んだ活用!アセスメントと日誌データを共有するためのプロンプト例

今後、個人情報保護の仕組みが整った際に活用できる、BWAP2のデータと日誌のメモを掛け合わせて本人へのフィードバックに変換するプロンプト例をご紹介します。 (※情報漏洩を防ぐため、必ず個人情報は匿名化し、Google AI Pro等の安全な環境で実行してください)

■ 面談準備での使い方(プロンプト例)

【プロンプト例】
Cさんの個別支援計画作成に向けて、本人との面談を行います。「BWAP2の評価結果(前回との比較)」と「直近のクラウド日誌のCSVメモ」をもとに、Cさん本人と一緒に読むための、強みとこれからの目標を伝えるフィードバックシートの文章を作成してください。

[1. BWAP2の評価結果]
・良い点:3年前と比較して、挨拶の評価が大きく上昇している。決まった手順の作業は引き続き非常に正確。
・課題点:予定外の変更があると混乱しやすい、分からない時に質問ができない。

[2. クラウド日誌からのCSVメモ(直近2週間)]
・〇月〇日:シール貼りの作業中、シールの台紙がなくなった際、自分から職員に「無くなりました」と報告ができた。 ・〇月〇日:いつもより少し複雑な商品の袋入れ作業だったが、最後まで集中して取り組めていた。

[出力の条件]
専門用語は使わず、優しい言葉遣いにすること。課題点については決して責めず、日誌にある「できた事実」と「3年間での成長」を褒めながら、「こうすればもっと楽に作業ができるようになるよ」という前向きなアドバイスに変換すること。Cさんが明日からの作業に自信を持てるような、温かいトーンで書くこと。


コーヒーブレイク:DXへの助走【組織DXのロードマップ】レベル2:トランスレーター(翻訳家)の確立?

■ 今回のストーリー

「サビ管さん、タブレット日誌のデータとBWAP2をAIで掛け合わせて、Cさんのフィードバックシートを作ってみました!」
DX担当スタッフが、画面をサビ管に見せます。

サビ管は、出来上がった文章を見て驚きました。「数値だけの評価じゃなくて、『シール貼りの時に材料が足りなくなった際、自分から職員に報告できた』っていう日誌の記録まで、本人の確かな成長として温かい言葉で盛り込まれているわ!
これならCさんも、日々の頑張りを見ててくれたんだって、すごく自信を持ってくれるはず」「データとデータを繋ぐだけで、こんなに心の通った文章ができるんですね」「ええ。AIが日誌の記録を素敵な言葉に翻訳してくれたおかげで、面談の時間がもっと楽しみになったわ」


■ DX担当レベル2のスキルとは? ITの専門知識よりも、「現場のデータ(日誌)」と「専門的な評価(BWAP2)」を繋ぎ、誰のためにどう届けるかをデザインする力。 このトランスレーター(翻訳家)としての役割が組織内で確立された時、AIは単なる業務効率化の枠を超え、人の心を動かす直接的な支援ツールへと進化します。



(次回、第4回「目標工賃達成指導員編:AIを活用した作業分析と工賃向上のヒント」へ続く)

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連載・福祉DX‐2:【職種別】サービス管理責任者編