公認心理師+AIに聞く!ポリヴェーガル理論のその先へ‐1

なぜ「がんばれ」が逆効果なのか?「頑張りすぎない」が脳を救う理由

こんにちは!ぽぷら事業所の公認心理師です。いよいよ北海道にも桜前線が到着し、旭川にも本格的な春がやってきました。 新しいスタートを切るこの時期、福祉の現場でも「今年度はもっと色々なことに挑戦させたい」と意気込んでいる支援員やご家族は多いのではないでしょうか。

「もっとできるはずだ」「力になりたい」。これは、利用者の可能性を信じる支援者たちの、まっすぐで温かい想いです。しかし、その純粋な「励まし」が、時に意図せず牙を剥き、相手の脳に緊急ブレーキをかけてしまうことがあるのをご存知でしょうか。

今回は、就労継続支援B型のサービス管理責任者として、そして公認心理師として現場に立つ立場から、良かれと思った支援が逆効果になるメカニズムと、私たちが本当に提供すべき「安心のつくり方」についてお話しします。

1. 「励まし」がブレーキに変わるとき

支援者が「がんばれ」と背中を押しているとき、本人の内側では何が起きているのでしょうか。 表面的にはうなずいていても、心臓の鼓動(ドキドキ)が激しく波打ち、どうしようもない不安や緊張に支配されていることが少なくありません。自律神経が「戦闘・逃走モード」に入り、安全の土台が全く機能していない状態です。

このとき、私たちの温かな「励まし」や「期待」は、本人にとって「切実なしんどさ」へと姿を変えます。安全だと思えない場所でアクセル(励まし)を踏まれれば踏まれるほど、本人の脳は壊れないように、必死で緊急ブレーキ(フリーズ)をかけようとします。

本人が施設、家族、そして支援者に「温かく見守られている」と感じているうちは良いのですが、それが少しでも「期待に応えなければ見捨てられる」というプレッシャーに反転した瞬間、世界は一気に「敵地」へと変わります。すべての安全基地が「期待の包囲網」になったとき、逃げ場を失った心は一気に崩れ落ちてしまう。現場で私たちが最も恐れなければならないのは、この「一気に崩れてしまう怖さ」なのです。

2. 現場の気づきから始まった「引き算」の環境デザイン

この一気に崩れるリスクを物理的に回避し、利用者同士の対人不安を最小限にするため、当事業所(ぽぷら事業所就労B)ではある大きな決断をしました。それは「朝の会」と「帰りの会」の一斉集合の廃止です。

この一石を投じてくれたのは、誰よりも近くで利用者さんの些細なサインを感じ取っていた現場の支援者でした。「一斉に集まる時間が、実はみんなにとって苦しい時間なのではないか」。その鋭い気づきを、私は公認心理師として脳科学の視点から裏付けし、サービス管理責任者として正式に「集合廃止」を決断しました。

一斉合流をなくし、個別のタイミングで静かに作業に入れる形へと切り替えたことで、「他人の反応を気にしなくていい環境」が生まれました。

さらに私たちは、本人の「毎日来たい」「もっとやりたい」という言葉の裏にある自律神経の高ぶりにブレーキをかけるため、週5日無理に通っていた方をあえて「週4日」程度に調整しました。すると、脳に回復の余白が生まれ、かえって通所時の気持ちが安定し、日々の生活の質が飛躍的に向上したのです。

また、荷物の搬入作業などでテンションが高くなりすぎる(交感神経が暴走しすぎる)方には、あえて室内の手先を動かす微細な作業へ切り替えてもらいました。指先に集中することで、暴走したエネルギーが一点に注がれ、興奮がスーッと減っていくのが目に見えて分かりました。

3. 私たちが提供すべき「究極の安心」とは

「安心をつくる」とは、ただ優しくすることでも、利用者同士を無理に仲良くさせることでもありません。 お互いの存在が「脅威」にならない距離感を、私たちが意図的にデザインすることです。誰の視線も気にせず、ただ自分の手元と呼吸に集中できる。そんな「一人でいても、みんなといても安全な場所」を作ることこそが、就労継続支援B型が目指す究極の環境だと考えています。

【コラム:3つのAi(アプローチ)で支援を読み解く】

今回の「引き算の支援(朝の会集合廃止・待つ支援)」を、3つの専門職AIを通して分析すると、それぞれの役割が綺麗に噛み合っていることがわかります。

  • 🧠 公認心理師Aiのアプローチ:【心と脳の防衛を解く】 心理学的な観点から見ると、「待つ」ことは相手の脳に「ここは安全基地である」と学習させるための最も有効な介入です。励ましという刺激(アクセル)をあえて減らし、心の余白を物理的に担保することで、相手の張り詰めた防衛反応(フリーズ)を自然に解きほぐす効果があります。

  • 🤝 社会福祉士Aiのアプローチ:【本人と環境の摩擦を減らす】 社会福祉士の役割は「環境への働きかけ」です。「朝の会が苦しい」という個人の課題を本人の努力不足とするのではなく、「一斉に集まる」という環境(システム)のほうを変える。また、週5日から週4日へ通所日数を調整することで、本人と社会との間に生じる摩擦を減らし、持続可能な生活モデルを再構築しています。

  • 🏢 サービス管理責任者Aiのアプローチ:【「やらないこと」を決める】 現場の支援員は真面目な人ほど「もっとやらなきゃ」と仕事を足し算し、疲弊しがちです。サビ管としての最大の役割は、現場の気づきを吸い上げ、「朝の会を廃止する」「あえて手出しせず待つ」という『引き算の支援』を組織のルールとして決断し、支援員自身を「過剰な感情労働」から守ることにあります。

利用者を想う「もっとできるはず」という熱意は、福祉の現場に欠かせない光です。しかし、その光が強すぎて相手を追い詰めないためには、支援員自身がふっと肩の力を抜き、ただ「待つ」ことができる心の余白が必要です。

相手の緊張に巻き込まれず、どっしりと安全基地であり続ける。そのための第一歩として、まずは私たちから、大きな深呼吸を始めてみませんか。

お知らせ

私たちの福祉現場でのAI活用事例が、Google Japan公式チャンネルで動画公開されました! 専門職の視点とAIを掛け合わせ、「人と向き合う時間」を創り出す挑戦を2分間に凝縮していただいています。全国で奮闘する支援者の皆様へ、福祉DXのヒントになれば幸いです。ぜひご覧ください!

🎥視聴はこちら:https://www.youtube.com/watch?v=HeVLl8NwQuA

次へ
次へ

連載『脳の仕様書を読み解く』‐7(全7回)