公認心理師+AIに聞く!ポリヴェーガル理論のその先へ‐2
支援員の「心の安定」が最強の支援技術。DXと学びで変わる就労支援の現場
こんにちは、ぽぷら事業所の公認心理師です。前回は、利用者の脳をフリーズさせないための「待つ支援」と「安心のつくり方」についてお話ししました。しかし、この「待つ支援」を現場で実践するためには、たった一つ、絶対に欠かせない前提条件があります。
それは、支援員自身が焦らず、心身ともに「自然体で落ち着いている状態(=脳のコンディションが整っている状態)」であることです。感情労働で疲弊し、支援員自身の脳が防衛モードになっていては、利用者の不安をどっしりと受け止めることはできません。
今回は、支援員の「脳のコンディション」を整え、プロとして成長し続けるために私たちが実践している、環境づくりと新しい学びの形についてお話しします。
1. 資格取得のリアルと、脳に「余白」を作る決断
福祉の現場において、専門性の向上と処遇の改善は直結しています。社会福祉士、精神保健福祉士、介護福祉士、そして公認心理師といった国家資格の取得は、プロとしてキャリアを描く上で「マスト(必須)」の現実です。
当事業所では、以前から常勤職員の国家資格保有率85%を達成していましたが、私たちはそこで立ち止まらず、働きながら学ぶための「安心と余白(脳のコンディション)」をさらに強固にする基盤を整えてきました。
令和5年度から「処遇改善加算」を3から1へ引き上げ、支援員の生活の基盤を底上げしました。そして令和6年度には「教育訓練休暇制度」を新設。有休とは別に学ぶための時間を組織として保障し、さらにその資格取得の学習期間中は「キャリアアップ手当」を支給することで、経済的な面からも手厚い教育支援を行っています。
結果として、現在までに4人の支援員が、自主的に通信大学や専門学校等で学び始めました。この「やらされる」のではなく「自ら学ぶ」姿勢こそが、脳が最も活性化する状態なのです。
現在(令和8年4月)、小規模の事業所ながら、常勤職員の国家資格保有率100%であり、トリプルライセンス以上が1名、ダブルライセンスは5名へと増加しました(パチパチ拍手)!教育訓練休暇と手当という環境整備が、確かな「相乗効果」を生み出しています。
2. 支援も情報もシームレスに。現場のリスキリングとDX
学びを加速させるためには、日々の業務の無駄を省き、支援員の認知負荷(脳の疲れ)を減らす必要があります。私たちの現場は今、大きく変わりつつあります。
常勤職員にはパソコンを1人1台配備し、Google Workspaceを導入。データはすべてGoogle ドライブに集約し、日々の連絡や気づきはGoogle Chatで瞬時に共有しています。利用者さんの日誌(Lineの記録システム)も複数のタブレットを活用してクラウド保存へと移行しています。
今後はGoogle AIの直接支援における活用も視野に入れ、パート職員を含めた研修システムとしてGoogle Classroomを使った事業所内eラーニングも開始する予定です。支援、情報共有、そして研修。これらがデジタル技術によって「シームレス(継ぎ目なく)」に繋がることで、支援員は事務作業に追われることなく、目の前の利用者さんと向き合うこと、そして自分自身のブラッシュアップ(リスキリング)に集中できるようになります。
3. 最大の学びは「教えること」
そして、学ぶことの一番のメソッドは「相手に教えること」です。
当事業所では、令和5年度から旭川市立大学と協定を結び、社会福祉士の実習施設として2年生・3年生のソーシャルワーク実習生を受け入れています。実習指導者として、あるいは現場の先輩として、支援員が学生に「手をつなぐ育成会の歴史」、「支援方法」、「その根拠」を教える。このプロセスが、実は最大の学び(インプット)に繋がっています。
「なぜ、今あの声かけをしたのか」「なぜ、あえて待ったのか」。 学生からの純粋な問いに答えることで、支援員は無意識に行っていた自分の支援を言語化し、客観的に省みる(メタ認知する)ことができます。次世代を育てるという環境が、結果として支援員自身のプロとしての輪郭をさらに確かなものにしているのです。
【コラム:3つの「Ai(アプローチ)」で支援を読み解く】
今回の「支援員の環境整備とリスキリング」を、3つの専門職AIを通して分析すると、それぞれの役割が綺麗に噛み合っていることがわかります。
🧠 公認心理師Aiのアプローチ:【学習と休息のマネジメント】
心理学的な観点では、脳が安心している状態を作ることが記憶の定着や現場での対応力を最も高めます。
また、EAP(従業員支援プログラム)や第2種衛生管理者の視点からも、DXによる認知負荷の軽減や、教えることによる「メタ認知」の向上は、単なる業務効率化ではなく、支援員のメンタルヘルス不調を未然に防ぎ、脳のコンディションを最適に保つための重要な「職場環境改善」のアプローチなのです。
🤝 社会福祉士Aiのアプローチ:【環境の再構築と地域連携】
ICT技術を用いて職場環境を再構築(DX化)し、支援員の負担という「摩擦」を減らすこと。
その際、LINEやGoogleといった「誰もが普段使いしているシステム」をあえて選ぶことで、ITスキルの学習という新たな壁を作らず、教育コストほぼゼロでスムーズな導入を実現しています。
そして、大学という地域の教育機関と連携し、事業所に「実習生という新しい風」を吹き込むことで、組織が閉鎖的になるのを防いでいます。
🏢 サービス管理責任者Aiのアプローチ:【プロを育てるシステム設計】
「もっと専門性を高めよう」と精神論でハッパをかけるのは簡単ですが、サビ管の役割はそれを可能にするシステム(制度)を作ることです。
処遇改善、パソコン・タブレットの配備、教育訓練休暇やキャリアアップ手当の創設。精神論を排し、プロフェッショナルが自然と育つ土壌を設計しています。
4.支援員が学び、休み、自然体でいることこそが、利用者への最大の支援に
支援員が焦りや疲労を手放し、心に「余白」を持っているとき、その静かな安心感は言葉にしなくても必ず利用者さんに伝わります。
「自分の身を削ってでも力になりたい」という献身的な想いは、福祉を支える本当に尊い力です。しかし、その優しさによって支援員自身がすり減ってしまっては、肝心の支援員が笑顔でいられなくなり、結果的に利用者さんを不安にさせてしまうことにもなりかねません。
支援員自身が心身ともに満たされ、プロとして成長する喜びを感じられているからこそ、相手の不安に巻き込まれず、本当の意味で相手のペースを「待つ」ことができるのです。
変わりゆく現場の中で、私たち自身がしなやかにアップデートし続けること。それが、選ばれる事業所であり続けるためには、マスト(必須)だと考えます。
次回(第3回)のテーマは、「脳と神経を癒す究極の居場所『ビロンギング』の作り方」です。支援員の環境が整い、心のゆとりが生まれたことで見えてきた、利用者さんにとっての本当の「安心できる居場所(所属感=ビロンギング)」とは何か。心が満たされることで、自ら新しい一歩を踏み出し、挑戦する方々が増えてきた嬉しい変化についても触れながら、支援の根幹にさらに一歩踏み込んでお話しします。ぜひお楽しみに!
お知らせ
私たちの福祉現場でのAI活用事例が、Google Japan公式チャンネルで動画公開されました! 専門職の視点とAIを掛け合わせ、「人と向き合う時間」を創り出す挑戦を2分間に凝縮していただいています。全国で奮闘する支援者の皆様へ、福祉DXのヒントになれば幸いです。ぜひご覧ください!