BWAP2の評価結果に基づいた具体的な活用事例
フォーマルとインフォーマルによる2軸アセスメント
こんにちは、ぽぷら事業所の公認心理師です。就労支援におけるアセスメントの目的は、対象者の現在の能力を単に測定することではなく、職場適応を阻害している要因を特定し、具体的な支援策を導き出すことにあります。この過程において、国際的な基準で比較可能なフォーマルアセスメントと、個別の背景事情や生活実態を深掘りするインフォーマルアセスメントは、互いに補完し合う不可欠な関係にあります。
フォーマルアセスメントのBWAP2を評価の基軸に据え、そこから得られた数値データを独自の行動観察記録と統合し、実効性の高い個別支援計画の原案へと昇華させる具体的なプロセスを考察します。
1・標準化ツールとしてのBWAP2の役割
BWAP2は、就労支援において不可欠な職場適応能力を客観的に可視化するツールです。就労アセスメントでは、まずBWAP2を実施し、対象者の行動特性を、仕事の習慣・態度、対人関係、認知能力、仕事の遂行能力の4領域で構造化します。
1.1 定量的データによる課題の所在を特定する
例えば、ある対象者において、認知能力は平均的であるにもかかわらず、対人関係の点数が著しく低いという結果が出たとします。この客観的な数値は、支援者の主観的な印象を排除し、対人相互作用において重大な適応困難を抱えているという明確な事実を提示します。
フォーマルアセスメントの強みは、このように多職種間で共有可能な共通言語としてのデータを提供し、国際的な基準に照らした評価を行うことで、支援の優先順位を明確にできる点にあります。
2・インフォーマルアセスメントと行動分析
フォーマルアセスメントが、何が課題かという事実を明らかにするのに対し、インフォーマルアセスメントは、なぜ、どのような状況でその課題が生じるのかという背景と理由を解明します。
2.1 独自の行動観察シートの作成
BWAP2で特定された課題を具体的に分析するため、以下の視点を含むインフォーマルな観察シートを作成し、併用します。
先行条件:どのような場面でその行動が起きたか(例:職員から急な予定変更を伝えられた時、周囲が騒がしい時など)。
具体的行動:実際にどのような反応を示したか(例:作業を止めて黙り込む、パニックになる、独り言が増えるなど)。
結果:行動の後に何が起きたか(例:作業が遅延した、周囲が配慮して声をかけた、本人の不安が解消されたなど)。
2.2 バイオ・サイコ・ソーシャル(BPS)モデルの視点 ※生物‐心理‐社会モデル
からだやこころの状態、さらに現場の騒音や照明といった環境要因、あるいは特定の職員や利用者との関係性など、BWAP2の標準項目には現れにくい環境要因を詳細に記録します。これが、個別の背景事情や生活実態を理解するためのインフォーマルアセスメントの役割です。
3・活用事例の考察:データの統合と支援計画原案への変換
ここでは、就労継続支援B型事業所に通うA氏(自閉スペクトラム症)の事例を想定し、両者の統合プロセスを検証します。
3.1 評価結果の統合分析
A氏のBWAP2の結果、仕事の遂行能力は高い一方、対人関係の中の指示の受け入れが極めて低い点数でした。これに対し、インフォーマルな観察記録を照らし合わせたところ、指示の内容自体は理解しているものの、複数の指示を一度に受けた際に混乱し、拒否的な態度をとっていることが判明しました。
この分析により、反抗的な性格という誤った見立てを避け、情報の同時処理の困難に伴う不安反応という正しい臨床的見立てへと修正することが可能となります。
3.2 個別支援計画原案への反映
この分析に基づき、以下のような具体的な支援策を計画原案に盛り込みます。
環境調整(支援者側):指示は必ず一つずつ、簡潔な言葉で行う。また、当日のスケジュールを視覚的に提示し、見通しを立てやすくする。
対処スキルの習得(本人側):混乱した際に一旦休憩します、あるいは一つずつお願いしますと周囲に伝えるための練習を行う。
4・両評価の相補性に関する考察
フォーマルとインフォーマルの双方向的なアセスメントの評価分析が最適な原案作成へとつながります。
フォーマルアセスメント(BWAP2)は、支援の妥当性を担保する指針であり、客観的な根拠に基づく説明責任を果たすための基盤です。一方、インフォーマルアセスメントは、その指針に基づいた具体的な実践場面において、個別支援の具体化に向けた臨床的指標の役割を果たします。
数値のみに偏れば個別の事情が無視され、観察のみに偏れば支援者の主観的な思い込みに陥るリスクがあります。両者を統合して初めて、真の意味での個別最適化された支援が実現します。
まとめ
BWAP2の活用とは、単にプロフィールシートを完成させることではなく、その数値を起点として、本人の内面や環境との相互作用を多角的に読み解いていく動的なプロセスです。
特別な資格を必要とせず、日常の観察者であるサービス管理責任者等が実施できるBWAP2は、現場の生きた情報を、科学的な根拠に基づく支援へとつなげるための、確かな土台となります。フォーマルとインフォーマルの双方を重視し、客観的な根拠と個別の背景事情や生活実態を等しく尊重する姿勢こそが、就労支援の専門性を高める確かな道であると言えます。
次回は、BWAP2を用いた定期的な再評価と、支援の軌道修正について考察します。
参考文献
発達障害の人の就労アセスメントツール BWAP2 日本語版マニュアル&質問用紙:合同出版(2021)
(GoogleAIが原文作成し公認心理師が加筆しました)