BWAP2を用いた定期的な再評価と支援の軌道修正

継続的モニタリングによる個別支援計画の最適化

こんにちは、ぽぷら事業所の公認心理師です。就労支援におけるアセスメントは、初期段階で完結するものではなく、本人の成長や環境の変化に応じて更新され続ける動的なプロセスであるべきです。特にBWAP2のような客観的な標準化ツールを、1年から3年といった一定のスパンで再実施する仕組みを構築することは、支援の妥当性を検証し、根拠に基づいた目標設定の更新(軌道修正)を行う上で極めて重要な意義を持ちます。

本稿では、就労継続支援B型における定期的な再評価の仕組みが支援現場にもたらす効果について、適切な目標設定が奏功した具体的な事例を交えながら考察します。

1:定期的な再評価の仕組みとその実務的価値

就労継続支援B型事業所において、BWAP2を例えば個別支援計画の更新時期に合わせて定期実施する仕組みを導入することは、支援の質を一定に保つための基盤となります。

1.1 経時的変化の可視化

初回のアセスメント結果と、定期的な再検査結果をプロフィールシート上で比較することにより、どの領域の行動特性が向上し、あるいは停滞しているかを視覚的に捉えることが可能になります。これは、支援員個人の主観的な「成長した気がする」という感覚を、国際的な基準に照らした客観的なデータへと裏付ける作業です。

1.2 支援の有効性検証

再評価の結果、数値に改善が見られない場合、それは本人の努力不足ではなく、現在の支援アプローチや環境調整が適切ではない可能性を示唆します。このように、BWAP2は本人を評価するだけでなく、提供されている支援プログラムそのものを評価するためのフィードバック機能も果たします。

2:適切な支援と目標設定の事例考察

ここでは、就労継続支援B型事業所に通うBさん(自閉スペクトラム症:ASD)の事例を想定し、長期的なスパンでBWAP2を活用した軌道修正のプロセスを検証します。

2.1 初回アセスメントと初期目標(0ヶ月目)

Bさんの初回検査では、仕事の遂行能力は一定の水準にあるものの、仕事の習慣・態度と対人関係の点数が低く、ワークプレイスメントはデイケア(生活介護)レベルに近い作業所レベルという結果でした。特に変化への対応と集中力の持続に課題が見られました。 この時点での初期目標は、事業所での安定した活動を優先し、午前中の作業への定着と手順書に沿った正確な作業に設定されました。

2.2 年後の再評価と中間的軌道修正(12ヶ月目)

1年間の支援を経て実施された2回目のBWAP2では、仕事の習慣・態度のスコアに改善が見られ、午前中の継続作業が可能になりました。一方で、対人関係の中の援助の依頼(作業でわからないことを質問する)のスコアは依然として低いままでした。 この結果を受け、サービス管理責任者等は、Bさんの課題がこれまでの「作業の持続」から「コミュニケーションを介した問題解決」が適当ではないかと見立てました。ここで支援の軌道修正を行い、次の目標を、「作業で問題が生じた際に支援員へその内容を報告し、解決策を共に考える」という社会的なスキル向上へと一段階引き上げました。

2.3 3年後の成果とステップアップへの展望

定期的な評価と軌道修正を積み重ねた結果、3年後の再検査においてBさんは劇的な変容を見せました。仕事の習慣・態度は完全に安定し、かつて課題であった対人関係においても、周囲の状況に応じた適切な振る舞いや、自分から意見、各要望を申し出る意思伝達が可能となりました。

ワークプレイスメントの指標は、作業所レベルから福祉就労レベル(A型等)を通り越し、一般就労レベルを視野に入れた水準へと到達しました。3年という歳月をかけて客観的なデータの推移を確認し続けたことで、本人も支援者も、一時的な調子の波に惑わされることなく、確かな実力の積み上げを確信することができました。

3:目標設定の最適化におけるフォーマル評価の役割

本事例において目標設定が上手く運用できた理由は、BWAP2という客観的な指標に基づき、背伸びしすぎない適切な困難度の目標を段階的に設定できたことにあります。

3.1 成功の鍵としての段階的目標

もし定期的な再評価を行わず、初期の集中力が続かないという主観的な見立てのみで3年間支援を続けていれば、Bさんが既に獲得したスキルをいつまでも練習させ続け、逆に新たなステップへの挑戦機会を逃していた可能性があります。BWAP2による定期的なスコアリングは、次のステップへ進むべきタイミングを明確にするサインとなります。

3.2 支援者間の合意形成

サービス管理責任者等が、支援員や外部の医療機関、ご家族、相談支援事業所、ハローワークなどと協議する際も、3年間にわたる再評価の比較データがあることで、本人の長期的な成長の軌跡を共有でき、今後の方向性についてスムーズな合意形成が可能となります。

4:定期的な再評価

実務において定期的な実施を阻害するのは、主に現場業務の多忙さや評価精度のばらつきです。

4.1 仕組み化と効率化

BWAP2は約15分という短時間で実施可能であるという利点を活かし、個別支援計画の作成フローに組み込むことが有効です。特別な資格を必要としないため、サービス管理責任者等だけでなく、複数の職員がマニュアルを共有し、日常的に行動観察の記録を積み重ねる体制が理想的です。

4.2 インフォーマルな視点との継続的統合

再評価においても、数値の変化の理由を解明するためには、これまでに考察したインフォーマルアセスメント(個別の背景事情の観察)との併用が不可欠です。3年間で数値が向上したのは、本人の認知的な変容か、あるいは長年の環境調整が習慣化した結果なのかを分析し続ける姿勢が求められます。

まとめ

BWAP2を用いた定期的な再評価は、単なる事務的な手続きではなく、支援の妥当性を絶えず問い直し、対象者の可能性を最大限に引き出すための誠実な臨床実践です。

3年という中長期スパンであっても、客観的な変化を捉え続ける仕組みは、現場の生きた情報を、科学的な根拠に基づく支援へとつなげるための、確かな土台となります。適切な目標設定と柔軟な軌道修正を可能にするこのサイクルこそが、サービス管理責任者等に求められる高度なマネジメントスキルであり、就労支援の専門性を担保するものです。

このようにフォーマルな再評価と個別の背景事情への深い洞察を両立させることで、対象者が自身の成長を実感し、確かな自信を持って次なるステップへと踏み出すための支援が実現します。

次回は、BWAP2を活用した多職種連携と企業や関係機関への情報提供のあり方について考察します。


参考文献

・発達障害の人の就労アセスメントツール BWAP2 日本語版マニュアル&質問用紙:合同出版(2021)

(GoogleAIが原文作成し公認心理師が加筆しました)

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BWAP2の評価結果に基づいた具体的な活用事例