就労継続支援B型の画期的アセスメントツールとは
就労アセスメントツール BWAP2(ベッカー職場適応プロフィール)の紹介
BWAP(ビーワップ)の位置づけ:フォーマルアセスメントの核心
こんにちは、ぽぷら事業所の公認心理師です。ベッカー職場適応プロフィール(Becker Work Adjustment Profile=BWAP)は、知的障害や発達障害を持つ人々の就労適性を、従来の作業能力測定に留まらず、職場の定着に不可欠な行動特性を客観的かつ体系的に評価するために開発された標準化ツールです。就労継続支援B型などの福祉サービスにおいて、個別最適化支援を設計するためのフォーマルアセスメントの核として極めて重要です。※BWAP2(ビーワップ・ツー)は改定版です
このプログラムの原書は、米国の Ralph L. Becker(ラルフ・L・ベッカー)博士によって開発された理論的基盤に依拠しています。日本語版は、日本の障害者就労支援に適合させるため、早稲田大学の梅永雄二教授が監訳・監修を務めています。BWAP2は、就労支援分野における総合的職場適応能力を測定するための、科学的根拠に基づく評価構造を提供しています。
1.評価構造と構成要素:アセスメントシートとプロフィールシート
1.1 BWAP2の二層構造
BWAP2の日本語版マニュアルに示される通り、このツールは「評価の実行」と「結果の統合・計画」という二つの機能を持つシートから構成されています。
●アセスメントシート(評価の実行)
役割: 標準化されたワークサンプル実施中の行動観察結果を記録します。
構成: 63項目の行動観察項目から構成されています。これらの項目は、後述の4つの主要行動指標に分類されています。BWAP2の実施者は、対象者の観察された実際の行動結果に基づき、各項目を具体的な評定尺度(0~4)で評価します。
●プロフィールシート(結果の統合・計画)
役割: アセスメントシートの評定結果を集約・分析し、視覚的なプロフィールとして提示します。
活用: このシート上のデータ分析を通じて、利用者のストレングスと優先的に取り組むべき課題を明確化し、最終的に個別支援計画におけるサポート計画を立案します。
1.2 BWAP2で評価される4領域とBWAの内容
アセスメントシートの63項目は、BWAの理論的枠組みに基づき、以下の4つの行動ドメインに分類され、総合的職場適応能力(BWA)を構成します。
HA(仕事の習慣/態度 - Habit & Attitude):勤怠、時間厳守、衛生管理、意欲及び仕事中の姿勢を評価する項目が設定されています。
IR(対人関係 - Interpersonal Relations): 社会的関わり、情緒の安定、協調性といった3つの分野を評価する項目が設定されています。
CO(認知能力 - Cognitive Ability): 推論・判断・知覚・思考・認識といった能力、知的なスキルを評価する項目が設定されています。
WP(仕事の遂行能力 - Work Performance):「粗大および微細運動」「コミュニケーション」「仕事の責任」「作業効率」の4つの分野を評価するための項目が設定されています。
総合的職場適応能力(BWA):さまざまな仕事や社会的活動を通して、対象者の総合的能力を評価します。
2.対象者のプロファイルを作成
2.1 63項目による行動特性の把握と客観性の確保
BWAP2が単なる主観的な観察記録に終わらないのは、63項目という具体的な行動を指標化している点にあります。これは、応用行動分析学(ABA)の原則に基づき、抽象的な概念を操作的に定義された具体的な行動へと分解することで、評価者間の一致度(信頼性)を高めています。
この63項目の評価は、フォーマルアセスメントと並行して行うインフォーマルアセスメントにおける行動の機能分析の基礎データとして極めて有効です。例えば、「IR」の特定項目で高いイライラが示された場合、その先行条件(A)と結果(C)を詳細に分析することで、問題行動が「要求からの逃避(Escape)」なのか、あるいは「感覚的な刺激の獲得(Sensory)」なのかといった機能的な見立てを深化させるための足がかりとなります。
2.2 プロフィールシートによる支援プロセス策定と課題明確化
プロフィールシートの最大の意義は、定量的データを行動支援というプロセスへと変換する機能を持つ点にあります。
プロフィールシートは、4つの指標のスコアを視覚化し、利用者の強みと課題のプロファイルを明確に提示します。このプロファイルが、個別支援計画における支援課題の検証と計画原案の起点となります。
統合分析(現状と見立て): 例えば、COが比較的高いにも関わらず、HAが低いというプロファイル(スコアの乖離)が示された場合、課題は「能力の不足」ではなく「動機付け、または意図的な習慣の確立の困難」にあると見立てられます。現状の分析とそこから得られた見立て(仮説を立ててみること)が重要です。
個別支援計画の立案: この分析に基づき、プロフィールシート上で立案される支援計画は、「特性に対応する環境調整」と「最適な活動(作業内容)」というように、利用者のプロファイルに個別最適化された支援を導き出します。
2.3 日本の障害福祉サービス事業所にも最適な画期的アセスメントツール
早稲田大学教授の梅永雄二氏の監修の下、BWAP2は国際的に信頼性が高い障害者の就労スキルを評価するアセスメントツールとして、日本の現場に導入されました。特徴は、実施時間が約15分と短く、評価者の特別な資格は不要です。対象者を知る人なら誰でも「BWAP2実施者」となれます。まさに心理職が少ない福祉現場の課題を補う画期的なアセスメントツールです。本レポートはここまで。次回につづく。
次回は「就労アセスメントツールBWAP2の実際と活用方法」です。
参考文献
発達障害の人の就労アセスメントツール BWAP2 日本語版マニュアル&質問用紙:合同出版(2021)
(GoogleAIが原文作成し公認心理師が加筆しました)