公認心理師に聞く!支援学校卒業後の運動習慣化と対応策

こんにちは、ぽぷら事業所の公認心理師です。特別支援学校等の卒業後におけるライフステージの変化に伴い、利用者の体重が年間で10%~20%以上増加してしまう事例が少なくありません。

本レポートでは、公認心理師及び元フィジカルコーチ、そしてJSPOスポーツ指導者という視点から、20代~30代の利用者の健康維持と自立した生活を送っていただくための方策をご提案します。中年期(40代)以降の場合は医師の診断による処方を優先ください。

第1章:健康リスクの複合的要因の分析

特別支援学校卒業後の利用者の生活は、様々な環境変化に伴い、エネルギー収支が「消費過多」から「摂取過多」へと傾斜します。

1-1. 身体活動量の低下傾向(フィジカルコーチの視点)

(1)学校環境とのギャップ

学校在籍中は、学校行事や体育の授業、サークル活動、学校敷地内での校舎移動など、集団での活動を通じて定期的な身体活動量が担保されていました。しかし卒業後、通所施設へ移行すると、日中活動の多くが「座り作業」や「創作活動」といった低強度で静的なものが中心となります。安全性が十分配慮され、心理的な安心感はありますが、活動量の変化により、基礎代謝を維持するための筋肉量の減少、そして一日の総エネルギー消費量が低下します。これは、「カロリー消費の土台」が崩れることを意味します。

(2)休日の過ごし方の影響

卒業後は、体育の時間や運動系サークル活動が無くなってしまい、知的障害のある利用者の多くは、活動性の高い選択肢がなくなります。施設の通所日以外は自宅等でのテレビや動画視聴といった低強度で長時間継続する静的活動に偏りがちであり、しだいに運動への「おっくうさ」が習慣的な行動として固定化します。公認心理師の視点から見ると、これは活動の選択肢がないことによる「学習性無力感」が誘発され、行動意欲が低下する要因の一つと考えます。

(3)スポーツ指導における専門性(コーチ)の確保と障害福祉サービス

通所施設(障害福祉サービス事業所)の支援員は作業支援や生活支援のプロですが、運動生理学やバイオメカニクスに基づく専門的なコーチングスキルを持つ人材は限られています。元々、就労系の通所施設は一般就労を目指すことや作業訓練によるスキルアップが目的のため、就労以外のサービス提供は不可となっており、結果として、利用者の体力や特性に合わせた効果的なトレーニングプログラムを提供できないことがあります。

1-2. 食習慣の悪化と高血圧直結食品の過剰摂取(栄養学・心理的視点)

(1)甘い飲料とスナック菓子類による「二重の危機」

自宅等では間食や嗜好品の摂取が増加する傾向があります。特に問題となるのが、甘い炭酸飲料や糖分の多いジュース、そして塩分や油分の多いサクサクとした袋菓子(高塩分・高脂肪スナック)の日常的な摂取です。これらは、高カロリー・高糖質による体重増加の直接的原因となるだけでなく、塩分(ナトリウム)を含んでおり、血圧を直接的に上昇させるという二重の悪影響を及ぼします。

(2)食行動のコントロールの困難さ(障害特性)

知的障害のある利用者は、「高血圧」「糖尿病」といった抽象的な概念や、高カロリー・高塩分食品と健康の長期的な関連性を理解することが難しいケースがあり、摂取量のコントロールが出来ない場合があります。これは認知的な理解の困難さと併せて衝動性という心理的課題が背景にあると捉えるべきです。

(3)朝食欠食と通所後の高カロリー・高糖質摂取

特別支援学校卒業後、利用者の中には朝食を抜く習慣がつくケースが見られます。朝食欠食は、その後の昼食や間食において血糖値の急激な上昇(血糖値スパイク)を招きやすく、脂肪が蓄積されやすい体質を作ります。さらに、帰宅後に、甘い飲料や菓子パン、スナック菓子類を過剰に摂取する傾向も見られます。身近な環境に高カロリー・高糖質な食品が手軽に摂取できることで、一層の過剰摂取を招いています。

第2章:健康上のリスクと早期介入

体重増加と高血圧は、放置すると利用者の健康を大きく損ない、将来的に自立した生活を維持することが難しくなる重大な要因です。

2-1. メタボリックシンドロームへの移行リスク:「サイレントキラー」の警告

体重増加とそれに伴う内臓脂肪の蓄積は、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)への移行を招く主要な要因です。メタボリックシンドロームとは、高血圧、高血糖、脂質異常のうち複数を持つ状態で、「サイレントキラー」と呼ばれています。

知的障害のある利用者の場合、体調不良や自覚症状を訴えることが困難な場合があるため、メタボリックシンドロームの状態が気づかれずに進行している場合があります。

メタボリックシンドロームは、以下の生活習慣病が複雑に絡み合い、最終的に循環器内科系の疾患を引き起こすリスクを飛躍的に高めます。

  1. 高血圧: 血管への負担が増大します。

  2. 高血糖: 糖尿病のリスクを高めます。

  3. 脂質異常: 動脈硬化を進行させます。

2-2. 早期介入の基準:「血圧130mmHg超」の重要性

このリスクを回避するためには、高血圧(140mmHg以上)となる前に介入する「早期介入」が不可欠です。

収縮期血圧が130mmHgを超えた場合、それは利用者の体からの「イエローカード」であり、生活習慣の緊急見直しが必要なサインとして、すべての支援者が共通認識を持つべきです。この時点で介入すれば、食事と運動の軌道修正によって、血圧を正常範囲に戻し、メタボリックシンドロームの進行を防ぐことが十分に可能です。

2-3. 有酸素運動を核としたトレーニングの推進(フィジカルコーチ・視点)

高血圧予防、体重減少、心肺機能向上に対し、最も効率的で科学的根拠のある対策は、有酸素運動です。特に、短時間で効果が高く、活動意欲を維持しやすいインターバルトレーニングを推奨します。

  • 科学的優位性: インターバルトレーニングは、「高強度(速歩3分目標)」と「低強度(ゆっくり歩き3分)」を繰り返すことで、通常の運動よりも効率的に脂肪燃焼を促進し、血管の柔軟性(血圧降下作用)を促進する効果が証明されています。

  • 安全性の確保: エアロバイクや座ってできる運動器具は、転倒リスクが極めて低いため、利用者の特性に配慮しながら安全に実施でき、運動への恐怖感を減らすことができます。

  • 「おっくうさ」の克服: 運動のペースにメリハリがあるため、単調な運動よりも集中力の持続と達成感を得やすく、心理的な「おっくうさ」を克服し、継続しやすいという側面もあります。

2-4. 心理的アプローチによる動機づけと習慣化(公認心理師の視点)

運動や食事の介入を定着させるには、心理的なサポートが不可欠です。

  • ご褒美の限定的活用: 甘いものは日常の習慣とは明確に切り離すべきですが、お祝いや特別な達成時(例:体重目標達成、競技会での入賞)といった非日常的な場面でのケーキなどのご褒美は、ポジティブな動機づけとして有効です。

  • 摂取量の管理: ただし、ご褒美(甘いもの)においても、限定化することが絶対条件です。このような報酬が、依存性を強めたり、健康管理の努力を台無しにしたりしないよう、家族、看護師や栄養士と連携し、厳格に取り決めることが重要です。

  • 報酬とフィードバックの視覚化: 「血圧が下がった」「今日は1万歩、歩けた」「カロリー消費した値」といった具体的な結果をスタンプやグラフ、スマホアプリ等で視覚化し、達成感という報酬を与えます。歩数や睡眠の質、カロリー消費等を視覚化できるウェアラブル端末(腕時計型)はぜひ導入したいデバイスです。

  • 血圧130mmHg超の「イエローカード」戦略: 血圧が130mmHgを超えたら「イエローカード」が出たと伝え、直ちに「生活習慣の緊急修正」に切り替えるというルールを設けます。これは、単純明快なルールと即時的な行動変容を促す認知行動療法の技法として有効です。

第3章:専門家による実践可能な対応策

この課題の解決には、フィジカルコーチ、公認心理師、看護師または栄養士、サービス管理責任者、家族が連携した多職種チームによる、一貫した介入が必須です。

3-1. 健康管理のための「アクティブ・ルーティーン」の確立

(1)血圧測定

毎日同じ時刻に血圧を測定し、結果を記録する習慣を確立します。この測定を、運動を始める前の「健康チェック」として位置づけ、収縮期血圧が130mmHgを超えた場合(イエローカード)は甘い飲料・スナック菓子類を即時中止し、(インターバル)運動の強度を調整して実施します。

(2)個別支援計画への組み込み

福祉施設のサービス管理責任者は、利用者の身体的・精神的なアセスメントを行い、高血圧予防に特化した運動メニューを、個別支援計画(または相談支援専門員のサービス等利用計画案)に具体的な支援内容として組み込みます。関係機関と調整後に週末のスポーツ競技体験を試みます。

3-2. 栄養管理と塩分・糖分の制限

(1)高血圧直結食品の厳格な制限

自宅やグループホーム内(居室)での甘い飲料と高塩分・高脂肪スナック菓子類の在庫管理をして、利用者自身が安易に過剰摂取できない環境を整備します。これは、個人の嗜好以前に、健康上リスクから身を守るための予防措置です。利用者に対しては丁寧な栄養指導と心理教育をしながら、代替品として、適量の無塩ナッツや少量のフルーツ、無糖(コーヒーなど)の飲料を検討し、味見をしながら少しずつ(少量に)慣れていくように支援します。

(2)朝食の確保と通所後の摂取管理

朝食の欠食を防ぐため、家族やグループホーム職員との連携を強化し、少量でも栄養価の高い朝食を摂る習慣を確立します。また、通所施設では休憩時間や帰宅時における高カロリー・高糖質食品(常備している菓子類、飴など)の摂取を徹底的に管理し、間食の摂取量を制限します。

(3)栄養指導(料理教室の開催など)

看護師または栄養士と連携し、炭水化物への偏りを避け、野菜、海藻類、キノコ類といった食品の摂取量を増やすよう栄養指導の環境を整えます。

【トピック:キノコ類の栄養素と健康メリット】

キノコ類は、カロリーが非常に低いにもかかわらず、ダイエットと血圧管理に役立つ重要な栄養素が豊富です。

食物繊維: 豊富に含まれる食物繊維は、腸内環境を整えてお通じを良くするだけでなく、食事で摂った脂肪や糖の吸収を遅らせる働きがあります。これにより、食後の血糖値の急上昇(血糖値スパイク)を防ぎ、内臓脂肪の蓄積を抑える手助けをします。

カリウム: 重要なミネラルであるカリウムが多く含まれています。カリウムは、体内に溜まった余分な塩分(ナトリウム)を体の外に出す働きがあるため、高血圧の予防や改善に直接的に役立ちます。

ビタミンD: 特に干しシイタケなどに多く含まれます。ビタミンDはカルシウムの吸収を助けて骨を丈夫にするだけでなく、免疫機能の維持や、近年の研究では血糖値や血圧のコントロールにも関わることが分かっています。

3-3. 週末のスポーツ介入としてのスペシャルオリンピックス

スペシャルオリンピックスの活動は、平日の日中活動で不足しがちな運動量を補う、週末の重要なスポーツ介入として機能します。スポーツ競技を通じた成功体験や仲間との交流は、利用者の自己肯定感を高めるだけでなく、週末の活動に明確な目標と楽しみを与えることで、生活全体のリズムを整え、運動を継続する最高の心理的報酬となります。

まとめ

知的障害のある利用者の特別支援学校卒業後の体重増加と高血圧リスクは、「活動量の低下」と「高塩分・高糖質食品の過剰摂取」という複合的な要因から生じています。この課題を克服するためには、血圧130mmHg超を「イエローカード」とする早期介入体制を構築することが不可欠です。

週末スポーツの習慣化と栄養指導及び心理教育を推進することで、利用者の体重は安定し、高血圧のリスクは軽減されます。ウェアラブル端末とスマホアプリを早期に導入し運用することも効果的です。いずれも早期の介入が利用者の長期的な健康を守り、より豊かな人生を送るための最大の支援となることを確信しています。

【諦めかけている方々へのメッセージ】

私たちの体は、少しずつでも、正しい方法で動かし始めれば、必ず応えてくれます。大切なのは、「昨日できなかったこと」ではなく、「今日、一歩でも前に進んだこと」です。私たちは皆さんの体と心のプロとして、サポートします。一緒に、その「一歩」を見つけて、再び活き活きとした生活を取り戻しましょう。

(GoogleAIが原文を作成し公認心理師が加筆しました)

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