公認心理師に聞く!知的障害のある人の週末スポーツ介入

メンタルタフネスと世界とのつながり

複合的介入としてのスポーツと自己統制能力の育成

こんにちは、ぽぷら事業所の公認心理師です!かつてアルペンスキーコーチやフィジカルコーチ、およびゴルフ関連の仕事に携わった経験を持つ者として、知的障害者の週末スポーツ介入について考察します。

本スポーツプログラムの核となるのは、北海道旭川という地理的・経済的優位性です。スキー場もゴルフ場も近いところであれば約15分でアクセス可能であり、世界的に恵まれた環境を最大限に活用できます。冬のアルペンスキーと夏のゴルフ(打ちっぱなし練習場、9ホールのショートコース、河川敷18ホールでコースデビュー目標)の年間プログラムは、好みのスポーツであれば体力向上や身体能力向上に留まらない、メンタルタフネスと自己統制能力の育成と認知機能の改善に直結する複合的な治療的介入です。

第1章:記憶力と実行機能の強化

スポーツが心と脳にもたらす効果は、私たちが普段意識しない神経科学の仕組みに基づいています。

1.1 脳の成長スイッチを入れる(BDNFと神経可塑性)

週末に集中的な運動をすることで、脳の学習センターである「海馬(かいば)」に、BDNF(脳由来神経栄養因子)という特別な物質が分泌されます。これは、脳細胞の成長を助け、新しい情報が繋がりやすくなる「脳の栄養剤」のようなものです。

  • 効果: 週末に集中的に運動することで、このBDNFが増え、普段の生活や仕事(例:就労B型で新しい作業を覚える)に必要な記憶力や集中力の土台が強化されます。

1.2 複雑な思考力(実行機能)のトレーニング

アルペンスキーやゴルフは、ただ体を動かすだけでなく、常に「考える力」を使います。この思考力を心理学では実行機能(EF)と呼びます。

  • 競技における戦略的思考の移行:

    • ゴルフでは、初めはボールをまっすぐ飛ばすことが目標ですが、上達するにつれて、フェアウェイ、グリーンなどの芝、風向き(向かい風(アゲインスト)など)、バンカー、池といった多様な環境要因を分析し、コース戦略を立ててから打つプロセスに移行することを目指します。この戦略的思考への移行は、知的障害を持つ方々にとって思考力を高める最高の練習となります。

    • スキーの場合は、旗門(ゲート)の並びや斜面変化、雪質、雪面(バーン)の掘れ具合といった環境要因を分析し、減速をしないための最適なラインを判断する能力(認知柔軟性)が鍛えられます。

  • 視線の調整と姿勢の安定: 自己の特性を把握した上で、運動時の目線や基本フォーム(重心や軸)や動作の習得を重ねることで、身体バランスや姿勢の改善が期待できます。

1.3 「内省」と「自己調整」の習慣化

上達には、自分の競技力を客観的に見つめ直す内省(ないせい)が不可欠です。

  • 動画撮影による内省: 自分のスイングや滑りをスマートフォンで撮影し、動画で見ることは、抽象的なアドバイスよりもずっと分かりやすい客観的なフィードバックになります。利用者は映像を見て、「あの時、自分はどこに力が入っていたか」という身体の意識を探ります。このトレーニングが、自己調整能力の土台を作ります。

  • オノマトペ(擬態語)の活用: コーチが使う「ぐっと力を入れる」「ギュンと曲がる」といった擬態語は、抽象的な指示の壁を取り払い、音や感覚を直感的な動作イメージに結びつけることで、運動学習を効率化します。

第2章:心の成長と世界とのつながり

スポーツ活動は、成功体験を積み重ね、学習性無力感(「どうせやってもムダだ」という気持ち)を乗り越えるための最強のツールです。

2.1 コンフォートゾーンからの脱却と自己実現(強化)

何よりも大事なのは、楽しみながら自信をつけることです。スポーツは、「自分の課題を見つけて超えていく」ための具体的な行動の場を提供します。

  • ゾーンの移行を通じた成長:(※参考:「毎日を楽しめる人の考え方」樺沢氏)

    1. コンフォートゾーン(※快適領域:安心): 何もしないでいる状態。成長は少ない。

    2. ラーニングゾーン(※学習領域:ワクワク感): コンフォートゾーンから一歩踏み出し、課題(ちょっと難しい)に挑戦する領域。新しい技術を学ぶ楽しさがある。

    3. デンジャーゾーン(※危険領域:不安・恐れ): 難しすぎて心が折れそうになる領域。しかし、この壁を乗り越えて自分の領域を広げることで、自己実現や自己成長へと繋がります。

  • メンタルの強化: 競技目標(スポーツ競技会出場など)に向けた努力は、このゾーン移行を意図的に促します。ミスや失敗をしても「楽しみながら」乗り越えるトレーニングが、精神的な強さ(レジリエンス)を育みます。

2.2 学習性無力感の打破と成長マインドセットの定着

  • 目標設定の楽しさ: 目標設定理論に基づき、プロセスに焦点を当てた指標(例:「ルーティンを5回守る」)を立てることで、指標を達成すること自体が「楽しさ」となり、モチベーションを維持します。

  • 成長マインドセットへの転換: 競技の失敗を「能力の欠如」という変えられない要因ではなく、「戦略や技術の誤り」という変えられる要因に帰属させるフィードバックを反復して受けることで、成長マインドセットが定着し、自信(自己効力感)を育みます。

2.3 世界との交流:障害の壁を超える笑顔

北海道の雪という魅力的な資源を介すことで、障害の有り無しにかかわらず、世界中の人々と交流し、人生を豊かにする機会を得ます。

  • コミュニケーションの容易さ: 言葉の壁がある中でも、スキーやゴルフといったスポーツは共通の動作やルールを持つため、ジェスチャーや笑顔といった非言語的な手段で容易にコミュニケーションがとれます。旭川から約1時間のFURANOSKIエリアはほぼインバウンドの方々がウィンタースポーツを楽しんでいます。

  • 自己肯定感の向上: 自分から向けた笑顔に対し、海外の人が笑顔で返してくれるという経験は、自己肯定感を飛躍的に向上させます。

まとめ:成長のための強固な土台

この年間を通じたスポーツ介入は、知的障害を持つ方に対し、脳機能の強化とメンタルタフネスの育成を同時に実現します。

  • 道具を通じた認知の拡張: アルペンスキーやゴルフは多くの道具を用います。一つ一つの道具の機能を理解することは競技力向上に直結し、興味によっては道具のメンテナンス技術の分野に広がるなど、可能性は無限に広がっています。

  • 科学的トレーニング支援と持続性の確保: 動画による内省、オノマトペ、ルーティンといった具体的な技術で認知・運動能力の向上を図ります。競技に必要な用品は高価ですが、旧モデルの活用や費用対効果の工夫(ユーズド品等で競技レベルに応じた用具選定)を施すことで、活動の継続性を担保します。

この楽しみながら行う週末スポーツ活動を通じて、プログラム参加者は学習性無力感を克服し、生涯にわたるウェルビーイングの基盤となる自己肯定感と社会適応能力を獲得します。私も20代のころアルペンスキー、ゴルフのスポーツを通じて、アメリカオレゴンやニュージーランド南島など海外トレーニングで渡ったときはワクワクやドキドキの連続でした。皆さんにとってもそのスポーツがもたらす世界とのつながりや、人生の可能性を広げる経験は、豊かな未来を支える強固な土台となることが期待されます。

(GoogleAIが原文作成し公認心理師が加筆しました)

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