公認心理師に聞く!マインドセット理論と就労支援

こんにちは!ぽぷら事業所の公認心理師です。今回はマインドセット理論(Growth Mindset Theory)の学術的考察と就労支援への適用について考えます。

マインドセット理論は、スタンフォード大学の心理学者キャロル・ドゥエック(Carol Dweck)によって提唱された、「能力や知性に関する、個人が心の中で密かに抱く暗黙の信念」を扱う心理学的枠組みです。この理論は、私たちの行動や感情、そして最終的な成功を決定づけるのは、実際の能力そのものではなく、「能力は固定されているのか、それとも成長するのか」というその人自身の信念であると主張します。

この信念は、主に以下の二元論的なカテゴリーで分類されます。

  1. 固定マインドセット(Fixed Mindset): 「自分の知性や才能は、生まれつき決まっていて、努力してもほとんど変わらない」と信じる信念。

  2. 成長マインドセット(Growth Mindset): 「知性や能力は、努力、新しい戦略、献身を通じて、いくらでも発達し、向上させることができる」と信じる信念。

この理論が就労支援の現場で重要なのは、利用者が過去の失敗経験や疾患の特性から、しばしば「どうせ自分には無理だ」という固定マインドセットに陥りやすく、これが学習性無力感を強化し、新たな挑戦を避ける最大の要因となるためです。マインドセットへの介入は、このネガティブな信念を行動変容の鍵として捉え直すことを目的とします。

1. 理論的背景:目標設定、帰属理論、そして学習性無力感

マインドセットの核心的な影響は、失敗に対する個人の反応様式と、そこから生じる学習性無力感の関連性にあります。

1.1 帰属理論と学習性無力感の連鎖

学習性無力感は、「何をしても結果が変わらない」という経験を繰り返すことで、努力が無意味だと学習し、問題解決の試みを放棄してしまう状態を指します。

  • 固定マインドセットと無力感: 固定マインドセットを持つ者は、失敗の原因を「能力の欠如」という変えられない(不可変的)な内部要因に帰属させます。この帰属様式は、無力感に陥る最も直接的な経路であり、作業拒否や通所率の低下に繋がります。

  • 成長マインドセットによる克服: 成長マインドセットは、失敗の原因を「戦略の誤り」や「努力の方向性」という変えることができる(可変的)な要因に帰属させます。マインドセットの介入は、このネガティブな帰属様式をポジティブなものへ転換させることを目的とします。

1.2 目標設定の質的差異(実証目標 vs. 学習目標)

固定マインドセットを持つ者は、自身の能力を他者に「実証(Performance Goal)」すること(例:完璧にミスなく作業をする)を目標とします。失敗は能力の限界を示すため、挑戦を避けがちです。これに対し、成長マインドセットを持つ者は、能力そのものを高める「学習目標(Mastery Goal)」(例:新しい作業や工程を覚える)を設定し、失敗を能力向上のための情報として歓迎します。学習目標への転換は、学習性無力感を予防する上で極めて重要です。

2. 神経科学的示唆:脳活動とエラー処理の差異

機能的磁気共鳴画像法(fMRI)や事象関連電位(ERP)を用いた研究により、マインドセットの違いが、課題遂行中の脳活動の差異として客観的に示されています。

2.1 エラー処理における認知的資源の配分

研究によると、固定マインドセットの脳は、エラーが発生したことを認識しても、それを「学習機会」として処理し、その後の戦略修正や集中力向上に活かす神経回路の活動が弱い傾向にあります。成長マインドセットの誘導は、このエラーから学ぶ脳の機能を回復させることを目指します。

2.2 脳の可塑性への信念「やれば~できる!?」

成長マインドセットを持つ者は、自身の脳が努力によって変化し、新しい神経経路を形成できる神経可塑性を信じています。この信念は、困難な課題に対するドーパミン作動性経路の優位性に影響を及ぼし、行動を継続する際の報酬系の活性化に寄与していると考えられています。

3. 就労継続支援B型における応用:学習性無力感の打破と定着支援

就労継続支援B型事業所(通称:就労B)は、障害や疾患により一般就労が困難な方が、訓練を通じて能力向上を目指す場です。利用者は過去の失敗経験や病状から自己効力感が著しく低下していることが多く、学習性無力感が定着しやすいため、このマインドセット理論の適用が極めて有効となります。

3.1 支援の焦点:学習目標への転換と無力感の予防

就労Bでは、無理をした作業(頑張りすぎや完璧)を目指すよりも「通所を継続する」「新しい作業手順や工程を覚える」といった学習目標(プロセス)を最優先に位置づける必要があります。

  • 無力感の発生状況の理解: 知的障害やASDを持つ利用者の場合、失敗経験は認知的な限界(例:ワーキングメモリの負荷超過)や感覚的な過負荷によって引き起こされることが多々あります。これらの失敗が、「自分の能力が低いからだ」と誤って解釈されると、容易に学習性無力感に繋がります。

3.2 知的障害・ASDを持つ利用者へのマインドセット適用技法

ASDや知的障害を併せ持つ利用者へのマインドセット理論の適用には、その認知特性とコミュニケーション様式に合わせた、特別な配慮と工夫が求められます。

  • 視覚的フィードバックの活用: 知的障害を持つ方の場合、「能力は変えられる」という抽象的な概念を言語的に理解することは困難なことが多くあります。そのため、成長マインドセットの支援は、「この作業を最後までやり遂げるのに、昨日より10分長く集中出来たね」と、具体的かつ定量的なデータ(チェックリストの進捗、日々の記録)を示すことで行われます。これは、「自分の努力が目に見える形で結果に繋がっている」という可変的な帰属様式を、言語能力に依存せずに体験させる効果があります。

  • 環境要因の外在化の徹底: 失敗の原因を「あなた自身の不注意」ではなく、「この作業手順(環境要因)があなたには合わなかった。手順を変更しましょう」と、必ず環境や方略に原因を帰属させます。この介入は、無力感の形成を予防する上で最も重要なステップです。

  • 「超細分化」された目標達成: 認知的な限界からくる失敗経験を減らすため、タスクを最小単位(例:シールを10枚単位で貼る)に分け、小さな成功を積み重ねます。これにより、「私はこの作業を完了する能力がある」という有能感(自己決定理論)を強化し、成長マインドセットを体験的に学習させます。

4. まとめ:成長マインドセットの定着とウェルビーイング

マインドセット理論は、就労継続支援B型における支援において、利用者が抱える学習性無力感を打破し、主体的な通所と職業能力の向上を促すための確かな心理学的基盤を提供します。

支援員が、利用者の失敗を不可変的な能力の限界としてではなく、可変的な戦略・努力の課題として捉え、一貫してプロセスに焦点を当てたフィードバックを行うことが、利用者の自己認識を「成長する物語」へと再構築し、ウェルビーイングの持続的な向上に繋がる鍵となります。

(GoogleAIが原文作成し公認心理師が加筆しました)

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