複合的アプローチの構築とCBTの応用(ACTの活用)

こんにちは、ぽぷら事業所の公認心理師です。今回は知的障害や自閉症スペクトラム障害(ASD)を持つ方への心理支援(包括的支援)について考えます。包括的な心理支援は、その方の認知特性、感覚特性、およびコミュニケーションのスタイルを深く理解した上で行われる、極めて個別化された複合的なアプローチが求められます。支援の究極的な目標は、利用者本人のウェルビーイングの向上、適応行動の促進、そして共存する不安や抑うつといった二次障害の軽減を図ることにあります。

1. 支援の土台となる行動心理学的原則

包括的な心理支援を確立するためには、以下の原則が土台となります。

構造化と予測可能性の確保

ASDの特性を持つ方にとって、環境が構造化され、ある程度予測可能であることは心の安定に不可欠です。タイムスケジュール、作業手順、休憩場所などを視覚的なツールで明確に示すことで、認知的な負荷と不安を軽減し、自己調整(Self-Regulation)を可能にします。

行動機能の理解(行動はコミュニケーション)

問題行動(不適応行動)を単なる「困った行動」として捉えるのではなく、「機能しないコミュニケーション」として理解します。行動分析学の視点から、その行動が「何を求めているのか」(要求)、「何を拒否しているのか」(回避)といった行動の機能を把握し、その行動に代わる機能的なコミュニケーション手段(代替行動)が支援の核心となります。

感覚特性への配慮

感覚の過敏さや鈍感さを考慮し、環境調整をします。特定の音、光、触覚刺激が不安や混乱を引き起こす場合、それを取り除くか、あるいは逆に心地よい感覚刺激(例:落ち着く音楽、心地よい素材)を提供することで、メンタルの安定を図ります。

2. 第三世代CBTの応用:アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)

従来の認知行動療法(CBT)が抽象的な言語能力を前提とすることが多いのに対し、アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)の視点は、言語能力に依存しない行動変容に焦点を当て、特にASDを持つ方への新たな支援の方向性を示します。

思考との距離をとる(脱フュージョン)

ACTは、ネガティブな思考や強いこだわりを「無理に変えようとする」のではなく、「思考はただの言葉やイメージであり、自分自身ではない」と気づき、思考と距離をとることを目指します(脱フュージョン)。

  • 応用: 強度の不安やこだわりの感情にとらわれた際には、「この考えはただ頭の中に浮かんでいるだけだ」と気づかせる方法を学びます。言語化が難しくても、呼吸法や自らの行動(運動、感覚)に意識を集中させ、ネガティブな思考から意識をそらす方法を支援します。

価値に基づく行動(コミットメント)

ACTの核心は、「自分にとって本当に大切なこと(価値)」を見つけ、不安や不快な感情(アクセプタンス)があっても、その価値に沿って行動することです。

  • 応用: 支援者と共に、利用者の活動(目標)におけるシンプルな「価値」を明確化します(例:「仲間と楽しく過ごすこと」「一つの作業をやり遂げること」)。そして、不安や気になることがあっても、その価値に向けて継続することを支援します。

3. ポジティブな動機づけとエンゲージメントの強化

ACTの価値に基づく行動を支えるために、本人の内発的な動機づけに焦点を当てた心理学理論を統合します。

自己決定理論(SDT)の活用

人の内発的な動機づけに必要な「自律性(Autonomy)」「有能性(Competence)」「関係性(Relatedness)」の3つの欲求を満たします。

  • 実践: 作業の選択肢を与える(自律性)、アセスメントで特定された強みを活かせる役割を担わせる(有能性)、支援員や仲間(他の利用者)との安心できる関係性を構築する(関係性)。これらの欲求充足が、行動を持続させます。

キャピタライゼーション理論の統合

良い出来事や成功を他の利用者と分かち合い、喜びや幸福感を増幅させます。これは、ACTにおける「価値に基づく行動」が報酬として脳にフィードバックされるプロセスを強化します。

  • 実践: 小さな成功(作業の達成、適切なコミュニケーション)を、すぐに具体的に支援員や仲間が成功体験を共有することで、本人の「できた!」というポジティブな経験を記憶に定着させます。

4. アセスメントに基づく包括的な心理支援

包括的な心理支援の実施は、いくつかの客観的な心理検査等のアセスメント結果に基づき、利用者の認知特性に合わせたプラン(個別支援計画)として策定されることが望まれます。

WAIS心理検査プロファイル活用の場合(公認心理師が実施)

WAIS(ウェクスラー知能検査)を実施した場合は、その結果に基づいて、認知機能のプロファイルを把握します。特にワーキングメモリ指標(WMI)や処理速度指標(PSI)の低さが確認された場合、それらが行動障害のトリガーとなる認知負荷を示唆していると解釈し、環境調整を徹底します。具体的には、「指示は一度に一つ」「作業を最小単位に分割」「応答に十分な時間を与える」といった、認知負荷軽減のための構造化を行います。WAISは包括的アセスメントの一つとして、詳細をご相談の上、ぽぷら事業所で実施が可能です。

まとめ

知的障害およびASD(自閉症スペクトラム障害)を持つ方への心理支援は、フォーマルアセスメントと呼ばれる心理検査プロファイル(WAISなど)の客観的評価に基づき、個人の特性を理解した上で、行動機能の分析と構造化を土台とします。その上で、ACTの「価値に基づく行動」によって利用者の活動の方向性を定め、SDTやキャピタライゼーションといった動機づけ理論でその行動を強化する、複合的なアプローチが求められます。このアプローチを通じて、利用者は不安や困難を少しずつ受け入れながら、自身の価値観をベースとした日中活動を送り、ウェルビーイングを向上させることが可能となります。

(GoogleAIが原文作成し公認心理師が加筆しました)

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