責任追及から課題解決へ:心理的安全性を高める対話
連載:小規模事業所のための産業保健の新潮流【第3回】
1. 「断定」ではなく「問いかけ」から始める
ストレスチェックにおける集団分析の結果が出た後、経営サイドが陥りやすい失敗は、結果を「確定した事実」として一方的に通達してしまうことです。しかし、10人規模の組織における対話の目的は、数字の正しさを競うことではなく、その数字の裏にある「実感」を共有することにあります。
話し合いの冒頭では、「われわれの組織(事業所)は対人関係の数値が低かった」と断定するのではなく、「今回の結果では、対人関係の項目に特徴が出ていたけれど、現場の皆さんはどう感じているかな?」というオープン・クエスチョン(開かれた問い)から始めることが肝要です。
2. 「心理的安全性」を担保する3つのグラウンド・ルール
「何を言っても、後で不利益を被らない」という確信、すなわち組織の中に心理的安全性がなければ、職場改善の対話は完全に形骸化します。特に少人数の職場では、以下の3つのルールを全員で共有することから始めます。
「人」を責めず「仕組み」を責める: 問題が起きたとき、特定の誰かの性格や能力のせいにせず、「そうなりやすい手順や環境」に目を向けることを徹底します
「聞き上手」が主役: 誰かが発言した際、即座に反論や否定をせず、まずは「そう感じているんだね」と肯定的に受け止める姿勢を全員で持ちます
「100点」を目指さない: 100点満点の解決策を出すことよりも、明日からできるアイディアを持ち寄った「即席改革」を推進する組織文化を作ります。
3. 責任追及を「課題解決」に変換するリフレーミング
対話の中で、どうしても「〇〇さんが動いてくれないから」「現場リーダーの指示が急すぎるから」といった、個人への不満が出ることがあります。ここで重要なのが、リフレーミング(枠組みの変換)の技術です。
個人への不満: 「〇〇さんの報告が遅い、または報告が無い」
課題の変換へ: 「報告が遅れてしまうのは、入力手順が複雑すぎるからではないか?」「タブレッドの共有など、タイミングを逃しやすい業務フローになっていないか?」
このように、不満の矛先を「個人」から「仕組み(プロセス)」へとスライドさせることで、対話は個人への攻撃から建設的な意見や提案へと変わります。
4. 改善の先にあるゴール:ワーク・エンゲイジメントの向上
職場環境改善の究極の目的は、単に「不満をなくす」ことではなく、職員が活き活きと働く「ワーク・エンゲイジメント」を高めることにあります。これには「活力」「熱意」「没頭」の3要素が必要だとされています。
組織心理学において、ワーク・エンゲイジメントはバーンアウト(燃え尽き)の対極に位置します。第2回で触れた「心の支え(人的資源)」が対話によって豊かになると、職員は仕事に意味を見出し、自発的に工夫するようになります。この「プラスを伸ばす」視点を持つことが、小規模事業所の活力を維持する鍵となります。
5. 現場主導の「ジョブ・クラフティング」を促す
対話を通じて、職員自らが仕事のやり方を微調整する「ジョブ・クラフティング」を推奨します。10人のチームなら、「明日から除雪当番のルールをこう変えてみよう」「タブレットの使用方法や意見出しのChatを工夫しよう」といった小さな改善が即座に実行可能です。
この「自分たちの手で職場を少し楽にできた」、「効果を実感できた」という成功体験(自己効力感)こそが、ストレス耐性を高め、ワーク・エンゲイジメントを醸成する最大のエネルギーとなります。
6. 第3回のまとめ:対話こそが「最高の資源」である
第3回では、分析結果を職場環境の改善へとつなげるための「対話の作法」について解説しました。
分析結果は対話を始めるための「素材」に過ぎない
心理的安全性を守るルールが、本音を引き出すセーフティネットになる
不満を「仕組みの課題」にリフレーミングし、ワーク・エンゲイジメントを高める
小規模事業所にとって、全員で一つのテーマについて誠実に話し合う時間は、それ自体が非常に強力な「心の支え(人的資源)」となります。
次回(第4回)は、こうした内部の取り組みをさらに安定させ、組織のトップやリーダーが一人で悩みを抱え込まないための「外部資源(EAP)との賢い付き合い方」について詳しくお伝えします。
(GoogleAIが原文作成し公認心理師が加筆しました)